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関東地方はいつまでも梅雨が明けなくて、八月に入るまでは気温もさして上がらない日が続いたような夏の始まりだったのだけれど。梅雨前線が完全に消え去ると、今度は…そんなにムキになって、一体何を取り返したいのだと訊いてみたくなるほどの一気呵成、台風一過のフェーン現象を思わせるほどもの気温の上昇が、各地で記録されるほど、今年も猛暑の夏となり、
「どうかすると欧州の方が涼しいんじゃないのか?」
何たって緯度が高いのだしと訊いたルフィへ、サンジが軽くかぶりを振って見せる。
「いや。今年はあっちも記録的な猛暑だ。」
何年か前にもやはり、欧州の各地がとんでもない猛暑に襲われた時に、フランスでは熱射病やそれによる多臓器不全でばたばたと倒れた死者が後を絶たず。その理由の一つが、なんと 一般家庭にはエアコンはおろか冷風扇や扇風機に至るまで、冷房用の器具がないのが普通だったから…だとニュースで報じていたのが、印象深かったのを筆者も覚えておりますが。フランスの夏は、どんなに暑くなってもエアコンが要るほどじゃあないという“限度”があったってことですね。そんな例年の常識が、歯が立たなかったほどもの猛暑に襲われたのは、確かエルニーニョ現象のせいだったとかどうとか、取り沙汰されてたのを覚えております、はい。
「そっか。」
じゃあ、蒸し暑い日本にいるからって具合が悪化するってことは、あんまり心配しなくてもいいのかな? 彼なりの気遣い、いやいや、もしかして甘えからかも? 傍らからそんな風に訊く愛しい弟分へ、どこか奥深いところからじんわりと滲み出すような、それはやわらかな笑い方を見せながら。その手元で鮮やかに操るは、指に隠れるほど刃渡りの短い、小振りのペティナイフが1本と新じゃがが次々。様々に蓄積されてた疲労が一気に噴出してか、此処への到着と同時に具合が悪くなったらしいと、客間の寝台へ超特急で担ぎ込まれてしまった金髪のムシュだったのだけれども。実際のところは…さして深刻なまでの疲れがあった訳じゃなし。小半時も横になってるうち、何とか落ち着けたからと、階下のキッチンまで降りて来たところが。タンクトップには無い袖まくって(笑)、夕食の支度に取り掛かり始めてたルフィとみて、何か手伝おうと言い出した彼だったのも、この場合は当然の成り行きならば、
『ダ〜メだってば。』
来て早々、倒れかけた人の言い分なんて聞いてやらん…と、皆まで言わさず追い出しかけた若奥様だったのもまた…以下同文。
『確か、おさんどんって労働なんだろ?』
それじゃあルフィの“休み”にならないじゃないかって、ゾロに説教してやるって物凄く怒ってたサンジなんじゃなかったっけと。具合が回復したらしいのが分かっているからこその、ちょいと強烈な憎まれまで言ってやったが、
『…あれは悪かったよ。』
今回ばかりは立つ瀬のないお兄様、とんだ言い掛かりで困惑させたねとその件へも素直に謝る始末。決して、炊事や洗濯、お掃除っていう“家事一般”を、使用人がするべき奉仕だとかいって低く見てた訳じゃあない。手抜きも落ち度もなく、ただただ家族への愛情込めて尽くしている奥様のこなす家事は、会社勤務に引けを取らないほど大変な労働だと思うからこそ、バカンスだってのに解放されないなんて…とむっかり来てしまった彼であり、そして、
『うん。そうと気遣ってくれてのことだってのは、俺にも判ってる。』
でもね? ゾロはいつだって、俺の作るご飯を美味しいと褒めてくれるし、たまにはまだまだ、焦がしたり味つけを間違えたりもするんだのに、全部全部食べ切ってくれる。お洗濯やお掃除の手際も見る見る上手になったって、今じゃあ自分よりもずんと物知りだなって感心してくれる。
『それに。』
美味しいお店にはじゃんじゃん連れ出してもくれるし、ずぼらして届くとこまでしか拭かなかった窓とか、ペーパーモップで撫でただけの床の端っこに落ちてた綿ぼこりとか、とか宅配で届いたそのまんま ちゃんと納戸にしまうの忘れてたミネラルウォーターとか、俺のやり残しを…見て見ぬ振りしちゃあ こそこそって片付けてもくれてるゾロでもあるしと。結局はお惚気を聞かされてしまってるサンジお母様だったりし。遮ることなぞ出来ましょうかという立場なればこそ、黙って聞くしかなく、
“これじゃあ何しに来たんだか、判んねぇよな。”
苦笑が零れてしようがないというところかと。で、
『そんなに元気になったって言うんだったら、あのな?』
ホントはお断りした方がいいのかなって決めあぐねてたことがあるんだけど。ちょっぴり視線を逸らしてモジモジ。言い淀んで見せたルフィを前にして、どうしてNOと断れましょうかと。………これが実は巧妙な“駆け引き”だったなら負け負けもいいトコ。ホントにルフィには形無しなのねとナミさんに改めて呆れられたこと請け合い。あの、途轍もなく用心深かった筈のあなたは今どこに。(こらこら)なんと中身を訊く前からOKを出してしまった、無防備にも程があるぞな サンジお兄様であり。
――― そして。
「わあ、凄い。まな板も使わないのにそんな薄くスライス出来るなんて。」
完熟トマトの湯むき並み。まだ洗っただけの新じゃがの皮を、次から次へとするりするり、なめらかに剥いてしまっては。男性らしくもちょっぴり骨張って大きめの手なのにね。手際がいいまま機能的に動くことで、そりゃあ綺麗に所作が映えている手捌きのもと、手のひらの中でそのままカードレベルのミリ単位、ごくごく薄切りにしてゆくところは、さながら…今 人気のテーブルマジシャンのような、鮮やかさとそれから、華麗ささえあったりし。ぱらぱらぱらっと手元から落ちてくおじゃがの薄切りは、お水を張ったボウルに落ちており、アクと余計なでんぷんを抜いたそれらをザッと手早く掬い上げると、ペーパータオルで挟み込んで水気を取ってから、テーブル用の置き型フライヤーの中温に保った油へ満遍なく散りばめて落としてゆけば、
「ほい、自家製ポテトチップスあがり。」
「わぁいvv」
レンガ積みのバーベキュー用カマドの周辺へと集まっていた面々から、無邪気な歓声がお元気に上がる。
「俺、工場の機械でないと作れないと思ってた。」
幼い面差しのお客様が心から感心すれば。ミネラル塩を振りかけながら、
「凄いだろー、ウチのサンジはvv」
作れない料理なんてないだぜ?と、ルフィが我が腕前のように鼻高々で自慢する。ここにいるのが身内ばかりなればこそ、あまり混乱もないけれど、ご近所の方々が居合わせていたらばきっと、
『………おややぁ?』
なんて、ついつい漏れなく言っただろうし。眼鏡をご使用の方ならば、クロスで何度も磨き直しては、たいそう混乱したに違いなく。
――― ええ、もうお判りですね。
実はルフィさんてば、ろろのあさんチのご一家をご招待しての、ガーデンパーティーを予定していたんですね。サンジさんが“説教しに行くぞ”というメールを下さったのは、朝一番のこれまたメールにて、あちらの ろろのあさんチへご招待を送った後だったので。まま、お食事だけの会ならば、サンジの方も付きっきりで看取らなきゃならない容体でもないのだし、ほんの2時間ほどで済ませられるかもしれないし…と。断ろうかどうしようか、ホントにギリギリまで迷ってた。
“それだけ、大切なお友達だってことだろからな。”
体調を崩したらしき姿を見て、ああまで恐慌状態になってしまったルフィだったほどに、サンジのことを大切な家族同然の対象だと思っていてなお。そんなお人の、しかも体調不良さえ、ついつい天秤にかけてしまうようなお相手だってのならば、ええ。こちらだってバックアップは惜しみませんともと、そのご招待のお話、自分も接待係として頑張りましょと、受けて立ったお母様だったりし。
“さすがに、このご一家だと聞いた時は、ほんのちょびっと後悔しかけたけれどもな。”
あははのはvv だって、紛らわしいほど微妙に似た人が放ったお言葉から…いきなり混乱したのが、体調不調の原因だったですものね。(苦笑) でもまあ、単なる“そっくりさん”だと思い直せば、そこは…対人における態度の切り替えやら、極端な話、演技とやらだって完璧にこなして、数々の窮地をくぐり抜けて来られた実績もちの、実は超長生きさん。本音を隠し通しての対談や会合なんて基本中の基本だとばかり、そうは見えねど 腹を据えてのOKを出し、今に至っているのだけれど。
“似てやがるのは、むくつけき野郎二人だけなんだしよ。”
そやつがルフィに似て非なる坊やを“ルフィ”と呼んだから、急激な思考停止へ積もり積もった疲労が覆いかぶさっての混乱を招いてしまっただけのこと。血のつながらない双子がいるのだと、そしてたまたま それぞれの連れ合いの名前がかぶってるからややこしいだけなんだと思やいいと。頭を整理したら…何てことはない集まり、ご紹介いただいた向こうのるふぃさんにも、
「駅前で逢いましたよね?」
「そうだったね。何だか俺がお知り合いに似てたんだって?」
「はい。///////」
ウチのゾロが間違えちゃっててすいません。あ、お前だって最初は勘違いしてたじゃないか…なんていう、他愛のない会話にもすんなりと溶け込めて。
「サンジェスト、さんて、やっぱり外国の方なんですか?」
「ああ。普段は北欧の方に住んでるんだよ。」
蜜をくぐらせたかのような甘い金の髪を、お顔の半分くらい隠すように垂らしていなさる風貌は、ともすればちょっぴりミステリアスな風情を滲ませており。手際のいい所作や案外とかっちりした肩口なんかがそれはシャープな印象のお兄さんが、線の細い麗しの顔容かんばせをふわりとほころばせて笑って見せれば、あやや…////////なんて頬を赤らめる可愛い男の子。ルフィにどこか似ているせいかな、日頃だったなら、いくら必要に迫られてのことでも、男が相手だったらどこかでぎこちなくなるかお座なりになるものが、何とも自然にお愛想笑いが出ている自分だと気がつく。
“ルフィの仲良しさんだからかねぇ。”
だったら自分も、丁寧に接しなくちゃなと。そういう順番の気構えがあるから? でもだけど。それならどうして、こちらのゾロさんへは相変わらず、どこか喧嘩腰な態度を取ってしまうのか。
“るふぃちゃんが可愛い子だからだろうな、うんうんvv”
………正直すぎます、お母様。(笑) ルフィは“今日はお客様なんだから”と言い張っていたのだが、それへといちゃもんつけに来た…もとえ、言い掛かりをつけに………。文句言う姿勢でいた“お炊事”なんだからということか、自分もお手伝いをと申し出てのパーティーメニューへ闖入参加。お肉と夏野菜と、こちらはお客様のお持たせ、大きめのエビにホタテというラインナップの夏場のバーベキューに合うように、氷の大皿にグリーンレタスで1口大ずつを小分けにした甘酢風味の春雨中華サラダと、野菜たっぷりのイタリアンスープ、ミネストローネをマグカップで。クリスピーなベースへ とろっとろのモッツァレラチーズとソフトベーコン、自家製トマトソースを乗っけたシンプルなミニピザに、サワークリームとクリームチーズのバランスが絶妙な、ブルーベリーソースのかかったレアチーズケーキと、牛乳風味のアイスクリームを揃えれば、これはもう立派なディナーばり。こちらさんたちへはあんまり奉仕の気持ちも動かないながら、大人もいるのでと氷詰めのバケットへ用意しといた缶ビールを、自分も1つと封を切り、その場での調理に手が空いた休憩よろしく、テラスに据え置きのスツールへと浅く腰掛けて、喉を潤してのお休みを堪能していれば、
「…おっと。」
とてちてとて…と。緑の芝生の上、寸の詰まった手足を振って、駆けて来た幼い影があり。ついついの習慣で、火を点けたばかりな煙草を急いでもみ消すところが、自分チにも同じくらいのお子様がいるお父さんならではな心遣いというものか。傍らの小さめの卓へ置いてあった灰皿へ、吸い殻を押し込んでそれから。念のためにと腰に巻いてたギャルソンエプロンで指まで拭う気の使いよう。そんなまでしたのが伝わったのか、てことこ駆けて来た小さな王子様は、テラコッタ煉瓦を敷いたテラスの縁、本当に有るか無しかの段差を、いかにも慎重に“よいちょ”と乗り越えて来ると。こちらのお兄様がスカートみたいにお膝に広げていらした濃色エプロンを、丸々とした愛らしいお手々でぎゅむと掴みしめ、見上げて来ながら…
「にーちゃvv」
るふぃ曰く、必殺の満面の笑顔にて“にゃは〜vv”とばかり。ご機嫌さんなままにてご挨拶。確か海と書いて“カイ”という名前だと、おいでになった時に紹介された幼子は、ふわっふわの黒髪も、黒々と潤んでこぼれ落ちそうな大きな瞳も、表情豊かな口元も、やっぱりどこかルフィにそっくりで。
“つか、ルフィが子供の頃は、正にこんなんだったんだろうよな。”
やはり同じ名前だったルフィとるふぃの、当人同士は見分けのつくサンジだが、こちらさんのように幼くなってしまうと、もうもう単なるミニチュア、三頭身に縮んだデフォルメ・キャラ(おいおい)に匹敵する、そりゃあ愛らしいお子様だとしか捉らえようがないらしく。
「どした? 登りたいのか?」
んしょんしょと、エプロンをしきりに引っ張りながら、自分のあんよを上げようとしてもいるので、これは“こっちに来て”とか“立って”ではないと判った以心伝心(?)も大したもの。ある意味で“抱っこ”のサインだと察してやり、座ったままにて長い腕を差し伸べ、ひょいっと抱えてお膝へと、軽々掬い上げて差し上げれば。きゃう〜vvと はしゃいだお声を上げたのが、保護者のかたがたへもさすがに届いたらしい。
「…あ・こら、カイ。」
初対面の人へなんてまた、大胆にも傍若無人な懐き方をしてと。いくら日頃は天真爛漫でよしとしている彼らでも、そういう辺りは…やたらご迷惑をかけてはいけないというマナーは、特別な身の上なればこそ用心深さの一端として身につけている、あちらのお宅のるふぃくん。それはそれはお綺麗な外人さんで、豪放磊落なというよりも繊細で…神経質かもという雰囲気のあったお兄さんへの、やたらな傍若無人はいけませんと、窘めるべく駆け寄って来たのだが、
「やーっ。」
手を差し伸べて、抱っこならこっちへと促しても、いやいやとかぶりを振り振り。どうかすると避けるように逃げるように、いい匂いのする初見のお兄さんの懐ろへとお顔を伏せて、ぎゅむっとばかり、ますますのことしがみつくカイくんだったりし。
「カイ。」
あんまり我儘は言わない子なのに。ましてや…自分じゃあなく初対面のお兄さんのほうが良いなんて素振りをしたのも初めてのこと。小さな背中に手を添えて、引きはがそうと仕掛かったものの、
「ちゃーっちゃ!」
おおう、久し振りに出ました。何かへ“嫌だよう”と強く愚図る時に出ていた、カイくん独特の意思表示。ぶんぶんと首を振るのへ、
「ああ、俺なら構わないよ。」
迷惑だろうにと気を遣ってくれているなら、ノー・プロブレム。丸ぁるい頭を包む、柔らかい髪を綺麗な指で梳いてやり、いい子いい子とあやしてやって、自分の腿の片方にまたがる小さな重みを大切そうに扱って差し上げる。
「ウチにも小さい女の子がいるから、子供の扱いは心得てるし。」
「…そうなんですか?」
いえ何だか、いかにもお洒落そうな人なんで、子供は苦手かなぁと思いましてと、るふぃくんが意外そうなお顔をし、
「それに…カイって男の人にはなかなか懐かないのに。」
自分とぞろの二人を例外に、若い人だと特に、怖がるか人見知りするかして、直に向かい合うのさえ尻込みする子なんですがと、ともすれば不思議そうにしている彼であり、
「あ…それを言うならサンジだって。」
やっぱり何だ何だと寄って来ていたこちらのルフィまでもが、そっくりさんとお顔を見合わせて。
「あのな? サンジって日頃だったら、こ〜んな小さい子供でも、男の子にはあんまり構い立てしないんだよ?」
だってのにこれだなんて珍しいと、本人を目の前にして言い切るところが…やっぱりルフィさんならではということでしょか。(苦笑) そこまで言われては、さすがに“おいおい”と目元を眇めかかったサンジだったが、
「にーちゃ?」
そりゃあ愛らしいお顔が見上げて来たのでと。不平を零しかけていたのを中途で留どめ、ひょいっと抱え上げると座ってた方向の前後をくるりと変えてやってから、
「ほ〜ら、これ何〜んだ?」
抱っこした坊やの前へと伸ばした両の腕。何だ何だとあっさり興味を引かれて前を向き直したカイくんの、丁度お胸の少し前辺り。パパのよりもほっそりと綺麗な白いお手々が、上へと開いて並んでおり。その片方へは、真っ赤な銀紙に包まれたチョコが1つ。わ〜vvと小さな手が伸びかけたが、手のひら二つはしゅっと閉められ、柔らかい仕草で合わさってから…もみもみと。合わさったお手々がそのまま、上になったり下になったりを繰り返し、パッと離れて。
「さあ、どっちかな?」
おおう。どっちに隠したかを当ててご覧というゲームであるらしい。今度は白い甲を上にした、2つの拳になって並んだお手々。自分からは頭のてっぺんしか見えない小さな坊やが、ちらりと見上げて来たのへと、にんまり笑って“さあさ・どっち?”と促すばかりのサンジであり、
“うわ〜、あんな風に子供をあやすサンジなんて…。”
ベルちゃん相手の時しか見たことないぞと、それこそその事実へと感動しちゃってるルフィだったりし。片やのるふぃママは るふぃママで、
“いや、匂いで分かっちゃうんだけど。”
普通のお子さんだったらいざ知らず、ウチの子はお鼻が利きますからと。手品ごっこだったら何十回やろうと意味ないしと…ちょっぴりお気の毒かもなんて思って見守っていたのだが。
「こーっちっ。」
「こっちか?」
ちょんちょんっと、カイくんが指でつついたのは右の方。えっへんと嬉しそうに、小さな肩越し見上げて来たのへ、こちらからも笑って見せて、
「それじゃあ…ほいっと。」
指示された方を開くと…あら不思議。
「え?」
るふぃママもびっくりしたのが、彼にも匂いで見えてた輪郭が、なのにそこには陰さえなかったから。もう一つのほうも続いて開いたが、
「あれれぇ?」
そっちも空っぽで、こりゃ変だと。ルフィまでもがキョトンとしたが、ぺしぺし、カイくんが最初の右手を叩いてみせると、
「あはは、ごめんごめん。やっぱ判ってはいたか。」
降参ですよと、右手をくるりと引っ繰り返せば、上になった甲の側に乗っかっていたのがさっきのチョコ。
「あ〜、指に挟んで隠してたな。」
これもお料理の手際と関係があるのやら、名刺やカードをこんな風に消して見せたり、服の袖口に鍵やらナイフを隠してみたりが、昔は事情のあった身ゆえに、器用にこなせるサンジェストさんだったりもし。
「俺も昔、よくからかわれたもんな。」
やっぱりお菓子や、おやつ代のコインにお部屋の鍵とかを、さあどっちかな?なんて選ぶように言われ、さんざんからかわれた覚えがあって。
「あーあ、カイくん怒っちゃうぞ。」
お菓子で騙すなんてのは、ともすりゃ子供が一番に嫌うこと。せっかく懐いてくれてたの、自分からおジャンにしてどうするかと、珍しい失態へ窘めるような言いようをしたルフィだったものの、
「にーちゃ、もっかいvv」
「………はい?」×2
ふくふくのお手々で赤いチョコはいただいたその上で、もう一回とのおねだりをする。きゃっきゃと笑ってアンヨをばたつかせるほど、まだまだ御機嫌そうなカイくんだったりするもんだから。
「………これは本気で懐かれてるな。」
「そうみたいだねぇ。」
うわあ、なんてまた珍しいことがあったもんだかと。二人のルフィさんたちが苦笑をするやら仰天するやら。妙な波乱で始まったバカンスは、でもでも、何だか不思議な組み合わせながらも、和やかな雲行きへという思わぬ展開を示してもおり。楽しいお休みを過ごせるのなら………………ま・いっか?(おいこら)
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*そして、あちらのお家のゾロさんにまで、
カイを懐かせるとは気に食わない野郎だなんて
思われてしまうサンジさんなんでしょうか。(苦笑) |